1.ねらい
 何でも「電子レンジでチンしてしまう」簡便な家庭生活の中で、家族との会話はますます遠のいています。じっくりと炎を見ながら、話が弾む家庭の復活を夢みて、その一助にでもなればと、蒸し器の製作を考えました。
 少人数の家族でも、片手鍋が一つあれば、市販の肉まんから本格的な蒸し物まで、十分に使いこなせる調理具。例え加工技術が未熟で加工精度が悪くても、それでも立派に使える、今までの常識とは異なった木製品です。
 できあがって、使い始めたなら、「家族の夢」も「肉まん」も、電子レンジよりずっと大きくふくらみます。

  2.指導計画  〔25時間〕
(1) 導 入…1時間
(2) 設 計…6時間
 a.機能と材料の研究
 b.接合と材料の研究
 c.構想のまとめ

(3) 製作…14時間
  a.けがき (2)
  b.ほぞつくり (2)
   ・のこぎりだけを使って
   ・のこぎりとのみを使って
  c.穴あけ (2)
  d.ほぞ穴つくり (4)
   ・のみだけを使って
   ・ドリルとのみを使って
   ・角のみ盤を使って
  e.ふたと底の組立 (2)
  f.すのこの調整 (1)
  g.調整と仕上げ (1)

 (4) まとめ…4時間
  a.調理計画と調理実習 (3)
  b.反省と評価 (1)


3.展開
 (1) 構想の工夫
 この作品の設計においては、形状の変更等ができる余地はあまりありません。しかし、生徒が工夫できるところは、少しでも工夫させてみるのもよいでしょう。
 a.底の穴の配置と数
  穴は、鍋からはみでた位置にあると、蒸気が漏れてしまいます。そこで、鍋の大きさ(直径16cm〜21cm位です)に合わせて、一定の円内に穴 があるようにします。しかもせいろの中で蒸気のむらができにくいように、四角く穴を配置するように指導します。
  穴の数は大きさと数は適当(9〜10個くらい)でいいでしょう。
 b.ふたの取っ手の取り付け位置
  左右対称なら、適当な寸法でよいので、生徒個々に工夫させます。

(2) 製作のポイント
 a.材料の準備
  ア.せいろ部の材質と寸法
1)ひのき、すぎ、洋ひのき、さわら、もみ等が利用できます。集成材も使え そうですが、食べ物を扱いますので、できればムクの材料がよいでしょう。
2)蒸すとねじれなどの変形がおこりやすいので、せいろ部や底には木目がまっすぐで、材質の素直なものを選びます。
3)ほぞ、ほぞ穴部分が小さいので、せいろ部には木目の細かいものを選びます。
4)短時間で作る場合には、70×240×10 にそろえた材料を10枚(失敗があるため、予備としてもう1枚用意するとよい)と、取っ手用の15×210×10 の 材料を4本準備します。(私は、70×240×10の板の中で、木目などの悪いものから作っています。)
5)大きな材料で準備するときには、220× 1000×10の1枚から材料どりをします。しかしこの場合、均質な材料がそろいにくいので、70×1000×10を3枚にするなど、ある程度小さくする方がいいものが手に入るようです。


  イ.すのこ部
  市販品で240×240の大きさのものを利用します。いろいろなものがありますが、ひごが太く皮つきのものを選びます。
  すのことして不要な部分は、すのこを支えるひご部と、ほぞ接合部のくさびがわりに使用します。


  ウ.釘
  長さ19mmのものが24本〜36本必要です。(私は、底には普通の平頭丸釘、ふたにはステンレスのスクリュー釘というふうに、2種類の釘を使わせました)

 b.けがき
  ア.基準面の設定
 ほぞ、ほぞ穴の部分のけがきでは、表裏のけがきが完全に一致しなければなりません。そのためには、基準面を設定することが大切です。せいろの部品では、こばの片方に名前を記入し、その面を基準面として製作していくのがよいようです。
  イ.寸法の誤差
 材料が寸法どおりでない場合には、どの寸法を優先すればよいのかを考えながら、材料どりをしていきます。
 この作品では、せいろの内側の寸法がそろうことが大切ですので、190mm が重要な寸法であることをしっかりと理解させます。
 もし、この寸法と多少異なった場合は、板の両端の寸法を変更することで調整します。
 c.ほぞつくり
 ほぞの作り方を2種類経験させることで、木材のもつ性質と工具の使用の方法が学べます。

ア.のこぎりだけを使って
  のこぎりの基本的な使用方法を理解させることが目的です。小さ なほぞですので、万力などでしっかり固定させます。
 ほぞ作りでは、少しの切り過ぎでも強度に大きく影響することを考えさせておきます。できれば縦びきと横びきのし過ぎによる強度の違いを考えて、そこからほぞ作りの手順を考えさせていくのもよいでしょう。

  イ.のこぎりとのみを使って
 最近の生徒にとっては、木目に沿って力を入れると、簡単に割れるということは常識とはなっていません。昔はまき割りや空手のまねごとなどの生活体験を通して自然に身につけたことだったのですが、今では割って遊ぶ木も周囲に見あたらないようです。それだけに、木が割れると歓声があがります。
 まき割りの経験のない生徒にとって、木材のもっている異方性を理 解させるのに絶好の機会です。また、最も興味関心の高まる場面であるといえるでしょうから、ぜひさせてみてください。
 
(4) ほぞ穴つくり
 ほぞ穴のあけ方を、3種類経験させます。ほぞ穴が小さいので、使用するのみの幅は、9mmのものがよいでしょう。のみの刃は状態が、能率にも仕上がりにも大きく影響することは、言うまでもありません。よく研いでおいていてください。
 a.のみだけを使って
 時間は多くかかりますが、基本となる作業ですので、ぜひさせておきたい作業の一つです。根気と丁寧さが要求されますので、日ごろの生徒とは少し違った意外な一面が発見できるものです。
 この作業では、無理をするとほぞ穴の周囲に割れを生じることがあるということを、特に注意を徹底しておくことが大切でしょう。
 b.ドリルとのみを使って
 ほぞ穴を最も能率的に作るには、角のみ盤の使用が一番です。しかし、学校でせっかく使い方を学んでも、家庭で活かすことができません。
 ドリルで下穴をあけて、のみで仕上げる作業は、家庭でもできる能率のよい方法ですので、一度経験しておくと、後々きっと役に立つと思われます。
 c.角のみ盤を使って
   <省略>

※参考 蒸し器を使った調理例
    (生徒の調理例)
 ○草団子、上用まんじゅう
 ○いきなりまんじゅう
 ○桜もち、赤飯、肉だんごのもち米蒸し
 ○蒸しケーキ
 ○シュ−マイ、ギョウザ
 ○プリン、茶碗蒸し
 ○ふかし芋(じゃがいも、さつまいも)

※参考 草団子(よもぎもち)の作り方
(1) よもぎの葉を、塩ひとつまみを入れた湯でさっとゆで、冷たい水でさらし、水をよくきり、すり鉢ですりつぶします。
  (市販のよもぎ粉があります。利用すると年中つくれます)
(2) 上新粉(140g)に白玉粉(60g)と砂糖(60g)を混ぜあわせ、ぬるま湯(150g)でこねます。
(3) ひとにぎり程度の大きさにちぎり分け、布をひいた蒸し器に並べ、約20分蒸します。(中が透き通る)
(4) ボールにあけて、よもぎの葉と温かいうちに混ぜます。(手で持てないときはへら等でこね、手で持てるようになれば、外側を内側へ返すように十分にこね、よもぎが均一になるようにします)
(5) 適当な大きさにちぎって、小さく丸めます(手に水をつけすぎるとまとまらないし、足りないとべたつきます)

4.まとめと発展
 加工学習の基礎を学習させることを、主目的に開発した題材です。初めてのこぎりやのみを使う生徒にも、作ることの喜び、完成したときの感激をもって欲しい。そのためには、多少加工精度が悪くても問題なく完成できる題材が必要であると考えます。(去年から、本題材のマルチ本立てを作るための練習材と称して、各部品を製作させています)
 従来からの教材(本立てや折りたたみイス等)には、接合部の精度が悪くてガタ付き、使用に耐えない作品がでることが少なくありませんでした。しかし本題材は、使用する際に蒸気によって木が膨張するので、ほぞ接合部にある程度のすきまがある方がよかったり、また蒸し物によっては蒸気を逃がしてやる必要のあるものも多く、精度の悪い作品の方がかえって都合の良いときもあるという皮肉な題材です。
 なお使用する鍋の深さは、ある程度深いものの方がよいことを知らせておいてください。また水が切れて空炊きにならないよう、水の量には時折注意することが肝心です。火のそばから離れないことも注意しておきます。

 作品を作り終え、みんなで調理実習をしているときに香ってくる木のにおい。ふたを時折あけては、蒸し具合いを確かめるときの不安な顔。大きく膨らんだ肉まんを見て、思わず上がる生徒たちの歓声。この雰囲気を家庭に戻したいと思い、「家庭で作った蒸し物」を必ず課題にしています。

 

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